GDPでは世界第二経済大国になった中国は、経済の高度成長の勢いを見せつづけているだけでなく、積極的な対外政策戦略の展開、軍事力のさらなる増強などにより、国際的な存在力を一段と高めている。しかしながら他方で、中国国内には依然として、格差拡大、腐敗・汚職・拝金主義の蔓延、環境悪化、食品安全、失業などさまざまな深刻な問題を抱えている。貧しい農民・労働者による大規模な集団抗議行動の数も規模も増大している。あるいは様々な権利を主張し擁護しようとする市民運動も広がっている。ネットによるインフォーマルな「自由空間」も拡大している。しかし部分的にはともかく、政治改革は容易に進展しない。まさに大国化、発展、繁栄と、人々にとっての生存の不安・不満、不条理の増大が同時的に進行するといった中国社会全体の「ねじれ構造」が進んでいるといってよいだろう。
 その中国をどのように総合的に冷静に客観的に認識するかは、ただ日本人研究者に限らず、中国人を含む世界の研究者にとって重要である。さらに正しい中国認識を持つことは、日常的に中国(人)との関わりを考える上で、あるいは日本の戦略的スタンスを決めていくうえで、決定的に重要な課題となるだろう。隣国にいるわれわれにとっては、現代中国の文化、社会、政治、経済等の現状を認識、理解し、現代中国に関する重要問題を総合的に解明することは急務となっている。
 現代中国地域研究拠点連携プログラムの第1期の拠点活動の成果を踏まえ、第2期計画の主要な目標は、6つの共同設置拠点と、新設の2つの連携研究拠点の連携を強め、集合的な成果をめざすことにある。具体的には以下の四つの目標と課題を設定している。
 1.地域研究としての中国研究の再生・発展、いわば「現代中国学」の体系化を図ることである。国際的な学界動向から見ると、米国における地域研究の衰退、インターディシプリナリーな研究の軽視の風潮が強まっているが、地域のリアリティを重んずる地域研究としての中国研究を復活・発展させる必要がある。地域研究は特定のディシプリンからのみでは全く不十分である。容易なことではないが、文明論、文化論、歴史学、地理学、政治学、経済学、社会学、文化人類学などを取り込んだ包括的な方法論を形成し、それによる分析を試みなければならない。
 地域研究としての現代中国研究のための基盤整備が必要である。そのためには以下の4点が大切である。
 ①これまでの拠点研究活動を横断的に有機的に連携していく仕組みを創ることである。横断性を重視したテーマ設定、横断的な人材交流の取り組みが必要である。
 ②他の地域研究プログラム(例えばイスラーム研究、インド研究、日本研究など)との地域研究方法論および相互に関わりあう研究テーマ・論点をめぐる研究交流を進めることである。
 ③地域研究方法論をめぐる国際的な研究活動を巻き込む形で取り組まれるべきである。
 ④現代中国についての文献・資料・史料の整理・デジタル化・拠点間ネットワークの形成に取り組まねばならない。
 3. 現代中国研究の系統的有機的な課題設定のもとに研究の質の向上、発展に尽力することである。研究課題の設定は各拠点がばらばらに行うのではなく、個別のテーマが集まって全体の大きなテーマとなる。そのような系統的かつ有機的な結びつきを持った研究課題を設定する必要がある。
 また、日本の現代中国研究活動の国際レベルにおける水準は客観的に見てもかなり高いレベルにあると考えられる。しかし日本語によるものが大半のため、海外の専門家の目にはほとんど届かないのが現状である。そうした現状を克服するために、①海外の専門機関などと共通の研究テーマで連携プログラムを組む、②海外の研究者を巻き込んだ英文ジャーナルの発信に取り組むなどが必要である。
 これらを通して、国際レベルにおいてもオープンな研究活動体制の構築を目指していかねばならない。特にアジア太平洋地域での現代中国の学術活動をしている人々との連携は、今後の我が国の現代中国研究が国際的に独自性を発揮する上で戦略的に重要であろう。
 3.現代中国研究の社会的貢献を促すことである。本プログラムは、単純に現代中国研究の質を高めるために、研究者が共同して切磋琢磨して研究活動に励むだけでは十分ではない。現代中国の理解を広く社会に求めること、そのために社会人向けの公開講座、シンポジウム、HPの開放などを進める。さらに現代中国のホットなイシューに関しては、常にある種の提言的なメッセージを発せられるような取り組みを考えねばならない。
 4.次世代研究者の人材育成に一層の力を入れることである。現代中国研究の重要性はますます高まっている。しかしながら国内における現代中国研究者の層はますます薄くなってきていると言わざるを得ない。次代のための人材育成のシステムを作り、積極的な育成を図ることは今日の急務の仕事である。同時に次世代研究者自身の主体的な参加による各拠点を超えた様々な企画、例えば次世代の国際シンポジウム、研究会・ワークショップなどを継続して実施し、その情報を各拠点が共有し、切磋琢磨し、相互協力できるようにする。