「研究企画総括(経済)」 東京大学拠点 丸川知雄

 2010年に中国のGDPが日本を上回り、中国が世界第2位の経済大国になったことはよく知られているが、2011年には製造業の付加価値額でアメリカを抜いて世界第一位の工業大国になったことも同様に注目されてよい。中国は「世界の工場」というフレーズが登場した10年前にはまだ将来の可能性にすぎなかったが、いよいよこの言葉が現実のものとなった。日本は世界のなかでも中国経済の研究が盛んな国の一つであるが、特に工業に対して関心を持っている研究者が多いところに特徴がある。

これまでの中国経済の研究は、社会主義国また発展途上国としての中国に着目し、その体制の特徴や体制転換、経済発展と構造変化を研究することが主であった。しかし、中国が世界一の工業大国になった今、従来の研究関心に加えて、新たな角度から中国経済を分析する研究が増えるであろう。

中国の工業の発展とともにさまざまな地域の工業の違いが鮮明になってきた。実地調査とデータ分析とを利用して、地理的アプローチによって各地域の産業の特徴を明らかにするのは楽しい作業である。歴史的文献の公開が進み、公文書館の資料も利用できるようになったので、工業発展の歴史を解明する作業もこれからいっそう進展するであろう。中国が世界の技術進歩の先端に到達しつつある産業分野もいくつかあるので、中国におけるイノベーションに関する研究もこれからますます盛んになるはずである。さらに、中国企業の存在感が増し、対外直接投資も拡大するだろうから、中国企業の経営管理や多国籍化に関する研究も広がるであろう。

私は人間文化研究機構現代中国地域研究事業を盛り上げることを通じて、中国経済研究の新たなフロンティアを開拓する作業に少しでも貢献したいと思っている。